市民タイムス寄稿「時は流れて」

中山公民館 館長 鈴木幹夫

はなもも

4月上旬、阿智の友人からハナモモの写真が送られてきて「きれいだからおいでおいで」の誘いをうけた。休日、曇天だったが、これだと人出も少ないだろうからと車を走らせ、昼神温泉方面に向かうと道の両側に色鮮やかなハナモモがまるでフラメンコを踊るように咲き乱れていた。60を過ぎたあたりから意識的に歩く機会がふえて、自然と目がいくようになったがそれまでは、どこでも車でビューっと走り抜け、道端の草木に心を寄せることはない貧しい感性で生きてきたのだ。
ハナモモは同じ木に赤や白、ピンクの花を咲かせる魅力がある。阿智のハナモモはそれらの花が、入り混じって光を求めている。
地元、中山小学校近くにも一本花を咲かせているが、それは赤と白が東と西側にくっきりと分かれている。色々なハナモモがあるのだなあと思ったのだが、ふと、人もそれぞれだけど、あの木のように心の中の性的思考が、L(レズビアン)G(ゲイ)B(バイ・セクシャル)T(トランス・ジェンダー)そして赤い花と白い花が混在する性もあり、最近社会的に認知されてきて、それはそれで花を咲かせる世がやって来つつあるのだなあと思った。
   
   自分で決めたわけじゃない きっと神さまが決めたのでしょう
   心のままに歩きたい うつむかないで歩きたい
   男に○を 女に○を いつも迷う わたしはどっちに
   でもこのごろ こんなのがあった
   「どちらでもない」を○で囲んだ
 ハナモモが咲いたよ 赤い花と白い花
    一本の樹に鮮やかに そんなわたしで いいのです
   
「どちらでもない」は、性別欄にそう付け加えられたオーストリアの話だが、松本市においても昨年より「…性別記載に関する指針」として、「…全ての人が、性別に関わりなくかけがえのない個人として尊重され、多様性を認め合いながら、生き生きと暮らせるまちを目指しています。…」として「…性別記載欄を設ける場合は「男」、「女」だけでなく、他の選択ができるよう配慮すること…」と記された。なかなかやるではないか、松本市。

プロローグ

入居することになった市営住宅近くのコンビニの営業時間がそれまでの午後11までから24時間になったばかりだった。今から32年前の3月、そのコンビニでおにぎりを買って外に出ると、寒気が身を包んで空を見上げると星が瞬いていた。引っ越しを終えたものの、部屋は荷物が整理できてなくて、丸くなっておにぎりを4人で食べた。家族は僕と妻、6歳の長女、5歳の長男。それまでの生活にピリオドを打ち、夫婦とも仕事を切り上げてこの地に居を構えた理由を一言で言うのはむずかしい。金はない、知り合いもない中、不安もあったが、新しい暮らしを迎えられる期待感を僕は抱いていた。4月から僕は長野県技術専門校木工科に入学するのだ。32歳の春だった。バブルは弾けたが「脱サラ」がブームであった。そう器用でもない僕は、木工で家計を支えていけるなどとは到底思えなかったが、木工技術を覚えられること、技術専門校に在籍する1年間、雇用保険が適用されること、南国紀州生まれのないものねだりで信州の風景と寒さに身を置きたかったことなどがこの地を選択した理由だった。4月、入校式で県歌「信濃の国」の歌詞を書いた紙が木工科の離職者だけに配布された。県外者がほとんどで、この歌を知らないからだ。行事の度この歌が歌われたと記憶するが、県歌をこれほど県民が知っていて、歌い継がれているという県を知らない。そもそも他の都道府県に府歌や県歌があるのだろうか。
中庭の桜が咲いて、その向こうにまだまだ雪深い乗鞍岳が座っていた。
あれから時は流れ、子どもたちも巣立っていった。あれやこれやの出来事や、今、感じ伝えたいことをここで気軽に綴ることができればいいなと思うのです。

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